毛虫のボロ

終らない人 宮崎駿 という番組が少し前に放映されたのですが、録画していたものをやっと見ました。

もう長編映画は作らないとおっしゃっていた宮崎駿監督ですが、毛虫のボロという、20年も前から構想がありながら映画化ができなかった題材があったそうで、それを、CGを使って映画化しようとしていました。

これまで手描きにこだわっていた宮崎監督が、です。

CGクリエイターの方が、毛虫のCGのデモのとき、空気抵抗を計算しているという話をしていました。

思い出したのは、昔テレビで見た、日本人CGクリエイターの特集です。その中で出てきた男性は、水の動きをCGで再現するために、それまで全く勉強したことのない流体力学を勉強していました。

その頃よりもさらに、CGの技術は進んでいて、今ではもう、実写なのかCGなのか、全く区別がつかないレベルに達していますよね。CGが使われているシーンは、明らかにCGだと分かる時代は、もうとっくに過去になってしまいました。

取り上げられていた、ボロが誕生するシーン。宮崎監督は、ボロが振り向くスピードが、生まれたばかりにしては機敏すぎると、もっと鈍くさい感じだという指示を出されていました。

一シーンの振り向き方一つとっても、ものすごく細かい修正指示が出てきます。やはり、こだわり方が尋常ではないです。

番組に出てきたCGディレクターは、櫻木優平さん。第1回 CGWORLD大賞にノミネートされた方です。今後、名前を見かけることが確実に増えていくであろう、新鋭のクリエイターですね。

「花とアリス殺人事件」のCGディレクター
「新世紀いんぱくつ。」で監督

をやられています。

こちらにインタビュー記事が掲載されていました。

しっかりとドラマを描いていきたい ~櫻木優平(スティーブンスティーブン)~|今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(4)

CGWORLDについてはこちらをご参照ください。「花とアリス殺人事件」の予告編動画が見れます。

CGWORLD AWARD 2015

櫻木さんが病院に行って休んだという日のシーン。監督が「気の病ですよ」と言ったところに、テロップで風邪だと出てきて少し笑ってしまいました。しかし、事実、気の病だったのだと思います。

あれだけ細部にこだわりを持った監督の作品に携わるというのは、尋常な精神力で務まるものではないでしょうから。

GC技術者が集まって宮崎監督にプレゼンをするというシーン、「人工知能 最近の展開」というタイトルのスライドが上映されていました。プレゼンしていたのはドワンゴ会長の川上量生さん。

画面に映し出されたのは、人工知能を使って、頭を足のように使って移動する生き物の映像。ゾンビゲームなどに使えるのではないかと実験的に開発しているものを発表していたのですが、宮崎監督は、身体障碍の友人を思い出すと言って、不快感をあらわにします。自分達の仕事と結び付けたいとは思わないと。痛みを感じずに作ったものであり、生命への屈辱を感じると。

打ち合わせの全貌が放送されたわけではないので、あまりはっきりとしたことは言えませんが、ドワンゴが、自社がどんなCG技術を持っているかを宮崎監督にアピールする絶好の機会で、刺激的なものを説明に用いたということかと思いました。

何が正解かは分かりませんし、プレゼンが成功だったのか失敗だったのかも分かりませんが(失敗だとしても、今後の進展によって、あれは成功だったということになるかもしれませんし)、プレゼンというのはいかに相手のことを考えて行わなければならないものかということや、宮崎監督が普段からいかに生命と向き合っているかというのが分かるシーンでした。

「毛虫のボロ」は、三鷹の森ジブリ美術館でのみ上映されるということでした。あの、ミニシアターで上映するということですよね。

番組のタイトルは「長編映画」という単語が入っていますが、この映画は短編で、時間は12分間だそうです。(参考:宮崎駿監督の新作短編『毛虫のボロ』はCG×手描きに!「怪獣えいがになっちゃいそう」 – シネマトゥデイ)

ミニシアター(映像展示室 土星座)は、簡易的な設計なので、長編映画にを見るには、観客が疲れてしまうような席なので、毛虫のボロが長編だったら大変だと思ったのですが、その心配はないようですね。

今のところ、この新作短編映画がいつ上映になるのかは分かりません。予算もかなり限られているようで、少ないスタッフで制作している様子でした。CGを使うというのも、少しでも人手を節約したいという意図があったのかもしれませんね。

ドキュメンタリーを通して分かったのは、宮崎監督の徹底的なこだわりぶりと、それが、手描きからCGへと手法が変わったとしても、全く変わらないということ。

何かを作る、何かを表現するというのはどういうものなのか、改めて考えさせられました。仕事って、本来こうあるべきなのでしょうね。